よくある課題 著者紹介
Communication

その「伝わらない」は、
言葉の問題ですか?

「指示が伝わらない」「報告が上がらない」「わかりましたと言ったのに結果が違う」——
外国人社員とのコミュニケーションの壁は、語学力だけでは説明できません。
10年以上のベトナムでのマネジメントの経験から、その構造を解説します。

外国人社員に指示が伝わらない、報告が上がらないもどかしさ

外国人社員とのコミュニケーションで疲弊する日常…。

外国人社員とのコミュニケーション障壁とは、語学力の差ではなく、報告・確認・品質基準といった「当たり前」の前提が互いに見えていないことで生じる問題です。

何度説明しても同じ質問が来る。「わかりました」と言ったのに、できあがったものが全然違う。報告が来ないので自分から確認しに行くと「問題ありません」と言われ、後で大きな問題が発覚する。

日本語がある程度できる社員でも、微妙なニュアンスが伝わらない。「急ぎで」と言ったのに翌週になっても動いていない。「丁寧にやって」と言ったら今度は時間をかけすぎる。

英語でやり取りすればいいかというと、そうでもない。相手にとっても英語はネイティブではない。お互いが第二言語で話すと、通じているように見えて、実は微妙にズレている。そしてそのズレに気づけない。

「もう少しうまくやれないのか」——そう思っているのは、おそらくあなただけではありません。

なぜ外国人社員とのコミュニケーションは言語力だけでは解決しないのか

外国人社員とのコミュニケーションがうまくいかないとき、多くの管理職は「日本語力の問題」だと考えます。しかし、日本語能力試験N2を持っている社員でも同じ問題が起きる。

本当の原因は、お互いが「当たり前」だと思っている前提が違うことにあります。

たとえば「報連相」。日本人なら社会人1年目で叩き込まれるこの概念は、多くの外国人にとって未知のものです。「何を・いつ・誰に報告すべきか」の基準が、そもそも共有されていない。

「品質基準」もそうです。「これでOK」のラインが違う。日本人にとっては「もう少し丁寧にやってほしい」レベルが、外国人社員にとっては「十分にやった」レベルだったりする。これは手抜きではなく、「十分」の定義が違うだけです。

生まれ育った環境が違えば、考え方が違います。これは当たり前のことです。しかし、当たり前すぎて意識されない。だから「前提のズレ」という形で問題が表面化する。

「ベトナム人だから」で片づけない社員マネジメントの考え方

ベトナム人と働いていると、「ベトナム人はこうだ」というカテゴリで相手を理解しようとする誘惑があります。実際、国民性の「傾向」は存在します。

しかし、全体の傾向と個人は別物です。

10人のベトナム人に話を聞いて、10人が同じ答えを返すことはありえない。それは日本人でも同じはずです。

私自身、ベトナムにいた当初、先輩の日本人から「ベトナム人は〇〇だ」という話を複数聞きました。結果、いろいろな「ベトナム人は…」に翻弄されました。参考意見は大事ですが、最終的に信じるべきは自分の目で見たこと、感じたことです。

最終的な解決方法は、「これが当社のルールだから」「責任者の判断だから」で判を下していくことです。ベトナムだから、日本だからは、会社のルールとは無関係です。

外国人社員からの報告が上がらない5つの理由

「報告が上がらない」という症状を一つ考えても、複数の原因が考えられます。

1. 言語の壁。
日本語で微妙なニュアンスを伝えるのは、日常会話ができるレベルの社員でも難しい。報告すべき内容はわかっていても、日本語で正確に言えないから黙ってしまう。

2. 上司への遠慮。
問題を報告すると「面倒な人」と思われるのではないか。上司が忙しそうにしていれば、なおさら声をかけづらい。

3. 過去の叱責体験。
以前、報告したら怒られた経験がある。あるいは他の社員が怒られるのを見た。「報告=怒られる」という学習が成立してしまっている。

4. 「何を報告すべきか」の基準が違う。
日本人にとっては報告すべき事態でも、外国人社員にとっては「これは報告するほどのことではない」と判断している。基準そのものが共有されていない。

5. 報告の必要性自体を認識していない。
そもそも「途中経過を報告する」という概念がない文化圏から来ている場合、「完了したら報告する」が当たり前になっている。

これらの壁は、語学研修だけでは越えられません。言語・心理・文化・構造——複数のレイヤーに同時に対処する必要があります。

外国人社員との前提のズレを埋める「明文化」

日本では「言わずとも察する」が美徳とされます。しかし、この美徳こそが、外国人とのコミュニケーションで最大の障壁になります。

「察する」ことのできる人材だけを残す——人材不足の時代、それはナンセンスです。

やるべきことは、明示的に伝えることです。ルールを文書化する。期待する品質を具体的に見せる。報告のタイミングと内容を定義する。「言わなくてもわかるだろう」を、一つずつ「書いてあるから確認できる」に変えていく。

文書化が理想ですが、それが難しいなら、日々の中で曖昧でもいいから考えを伝えていく。これは日本人が相手でも同様です。

もう一つ大事なのは、相手の言葉で話す努力をすることです。通訳を挟むと、どれだけスキルが高くても「他人の言葉」になり、説得力が落ちる。日本人同士でも伝言ゲームで内容が変わるのと同じです。翻訳を介せば、言語が違う時点で多かれ少なかれ内容のズレは避けられない。そして大きいのは内容以上に「印象」のズレです。

たどたどしくても、自分の言葉で直接伝える。これだけで、相手の受け止め方は変わります。

そして何より、理解することに時間を使うことです。新しい環境に来た人間の脳は、すでにフル稼働しています。新しい国、新しい言語、新しい職場。空気が違い、食べ物が違う。「覚えが悪い」のではなく、脳が処理できる量を超えているだけです。少なくとも業務が定型化していくまでは、相手を理解することに集中すべきです。「忙しいから後回し」にして的確な指示・決定を下せるような人間は、めったにいません。

これは外国人社員の側だけの話ではありません。外国人を受け入れる管理職の側にも、同じことが言えます。