同じ現象がベトナム語話者にも起きます。ベトナム人が英語を話すとき、当人にそのつもりがなくても、ベトナム語の発音に引きずられます。
わかりやすい例は、"three" が "tree" に近く聞こえることです。英語の th(/θ/)の音がベトナム語にはないので、近い位置にある t に寄ってしまう、という現象です。
音の置き換え以外にも、ベトナム語にはない仕組みがいくつかあります。ひとつは子音のかたまりです。英語の "street" や "strength" のように子音が3つ、4つ連続する単語を発音する土台が母語にないので、子音が抜け落ちたり、間に短い母音が挟まったりします。
もうひとつは語末の子音のあつかいです。英語で "cat" を発音するとき、最後の /t/ は舌を口蓋に当てたあと息を抜いて、小さな破裂を伴います。ところがベトナム語では、語末の閉鎖音は口の形だけ作って、最後の破裂を行わずに音を閉じます。この習慣のまま英語を話すと、語末の子音が日本人の耳には「聞こえない」あるいは「途中で消える」ように届きます(Cunningham, 2009)。日本語話者が単語を特定する手がかりとして頼りにしている語末の子音が、そもそも発されていないということが起きます。
加えて、ベトナム語は6つの声調を持つ言語です。単語ごとに固有の声調が割り当てられていて、声の高低のパターンが言葉の意味を決めます。この感覚が英語にも乗ると、英語のイントネーションとは違う音の上下が現れます。ベトナム語話者の英語の疑問文を分析した研究では、初級者ほどベトナム語の声調に近い音の動きを英語の文末に使う傾向が確認されています(Nguyen & Dao, 2018)。
日本人の英語は音節が増え、リズムが平板になる。ベトナム人の英語は語末の子音が落ち、声調の癖が乗る。崩れる方向が正反対に近いので、お互いの英語は、自分の母語の感覚だけでは補いにくいものになります。