よくある課題 著者紹介
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現地からの報告が
「読めない」ときの処方箋

毎月届く報告書。数字は並んでいる。しかし、それを見て何を判断すればいいのかわからない。
問題は報告の「質」ではなく、「何を知りたいか」が共有されていないことにあるかもしれません。

海外拠点の報告が「読めない」とは、現地法人や海外子会社から届く報告書の数字を見ても、経営判断の材料として機能しない状態を指します。この問題の多くは、報告する側のスキル不足ではなく、本社が「何を・どの粒度で・何のために知りたいか」を定義・共有していないことに起因します。

報告書が届いても判断材料にならない

現地法人や海外拠点から、毎月報告書が届く。売上、経費、人員数、進捗率——数字は並んでいます。

しかし、その数字を前にして「で、結局どうなのか」がわからない。前月と比べて増えたのか減ったのか、それは良いことなのか悪いことなのか。質問を返しても、的を射た答えが返ってこない。

報告のフォーマットを変えてみる。項目を増やしてみる。それでも状況は変わらない。次第に報告書を開くこと自体が億劫になり、気づけば数ヶ月分がたまっている——。

この問題を「現地担当者の能力不足」で片づけてしまうのは早計です。

海外拠点の報告が噛み合わない構造的な原因

報告が「読めない」原因は、多くの場合、複数の層にまたがっています。

本社側が「何を知りたいか」を定義していない。

「ちゃんと報告してほしい」という要望は、実は非常に曖昧です。何の数字を、どの粒度で、何と比較できる形で、いつまでに出してほしいのか。それが明文化されていなければ、現地担当者は自分なりの解釈で報告を作るしかありません。結果として、本社が求めるものと現地が出すものの間にずれが生じます。

言語の壁が精度を下げる。

報告書が日本語で書かれていても、作成者が日本語ネイティブでなければ、微妙なニュアンスが落ちることがあります。「問題なし」と書かれていても、それが「順調」なのか「把握できていないが特段の異常は認識していない」なのかは、文面だけでは判断できません。逆に、現地の言語で作成された報告を本社側が読めないケースもあります。

現地には現地の法律・会計基準・慣習がある。

たとえば、日本の管理会計で使う勘定科目や費用区分が、現地の会計制度と一致しないことは珍しくありません。現地の税務上の区分、社会保険の仕組み、業界慣行が日本と異なるために、数字の意味自体がずれていることもあります。本社が見慣れたフォーマットに当てはめようとすると、現地担当者に不自然な変換作業を強いることになります。

経験やスキルの差を考慮していない。

本社で管理会計やKPI設計の経験がある人材と、現地で経理や総務を担当している人材では、数字を扱う前提知識が異なります。「この数字を出してください」と言われて出せる人と、そもそも何を集計すればその数字になるのかがわからない人がいます。定義せずに押しつけるのは、相手に過大な負担をかけることになります。

現地の担当者が見ている景色

ここまでは本社側から見た「報告が読めない」原因を整理しました。では、報告書を作成する現地側はどのような状況に置かれているのでしょうか。

現地の経理担当者や管理者にとって、本社向けの報告書作成は本来業務に加えての追加作業です。日常業務——現地の税務申告、社会保険手続き、従業員対応——をこなしながら、本社が求めるフォーマットに数字を変換し、日本語(または英語)で整えなければなりません。

本社が「この数字がほしい」と伝えたとしても、現地の会計システムからその数字を直接取り出せるとは限りません。現地の勘定科目を日本側の区分に読み替える作業が必要になることもあります。その読み替えが正しいかどうかを判断するには、日本側の管理会計の意図を理解している必要がありますが、それが共有されていないケースが多い。

さらに、現地には現地の優先順位があります。税務署への申告期限、監査対応、労働許可証の更新——これらは本社向けの月次報告よりも期限が厳格で、後回しにできません。本社向け報告が後手に回るのは、怠慢ではなく、現地の業務環境における合理的な判断であることも少なくありません。

報告の質を上げるために現地に求めるべきことが本当にあるのか、それとも本社側の「問いの出し方」を変えるだけで状況が改善するのか。その見極めが、この問題の出発点になります。